福岡地方裁判所飯塚支部 昭和40年(タ)9号 判決 1966年3月23日
原告 全玉順
右訴訟代理人弁護士 高木定義
被告 金寿鉱
主文
原告と被告とを離婚する。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は主文同旨の判決及び原被告間に出生した長男修一、二男安男、三男敏治の親権者を被告と定める旨の申立をなし、その請求の原因として
一、原告と被告とは訴外崔某の世話により日本福岡県嘉穂郡穂波町平恒に於て昭和二九年四月一八日挙式の上婚姻をなし同棲したが、当時原告は二〇才被告は三三才にして土方其の他をなし一定の職業はなく、従って財産もなかった。
二、原被告間においては昭和三〇年五月一八日長男修一を、昭和三三年一月一六日二男安男を、昭和三六年三月三日三男敏治を儲け今日に至っておる。
被告は元来酒客にして原、被告が結婚後約一ヶ年位は謹慎していたがその後は酒乱者となり、
(イ) 酒を飲んで「でたらめ」を云い
(ロ) 原告に対し殴打暴行をなす
等の習癖となり爾来これが悪化し昭和四〇年二月一四日頃約十ヶ年間のうち原告は被告家に居たまらず年「二、三回位」実父たる全命寛方に避難するの止むなきに至った事情もあったが原告は子供も有することとて右被告の暴行に対し耐え忍んできた。
三、処が被告は
1、昭和四〇年二月一四日午後七時頃より酒を飲み始め、原告に対し殴打暴行をなすにより原告は止むなく実父全命寛方に三男を連れ避難し翌一五日午後被告方に帰宅した。
2、六月一八日夜又々被告が原告に対し殴打暴行をなすにより隣家たる日本人中岡氏が仲裁にはいりようやく同夜は静まった。
3、更に六月二一日夜一一時頃又々被告が原告に対し殴打暴行をなすにつき原告は隣家中岡氏方に逃げ避難をした処被告は中岡方まで原告を追い来たり暴行をなすにつき止むなく近隣者が見かねて飯塚警察署平恒派出所生野巡査に依頼し、被告を一晩保護検束をして貰った。
四、以上の次第により原告は目下相当年令でもあり将来被告と到底婚姻による共同生活の継続が絶対に出来得ない事情にあり遂に意を決し昭和四〇年六月二五日午後八時頃子供三人を被告家に置き家出をなし、爾来実父たる肩書地の全命寛の保護により生活し今日に至っておる。
五、原告は昭和四〇年八月一九日被告を相手方となし福岡家庭裁判所飯塚支部に対し離婚調停申立をなし右は同庁昭和四〇年(家イ)第一二五号事件として受理され以来調停がありたるも昭和四〇年九月一日調停不調となった。
六、事実関係は以上の通りで被告の行為は韓国民法第八百四十条第六号に、その他婚姻を継続し難い重大な事由あるときに該当するから本訴請求に及んだ。尚原、被告間に儲けた子供三人の親権者に関しては被告が行使することを希望しているから請求趣旨記載の判決を賜りたい旨陳述し、立証として証人生野政治、崔良夫、全命寛の各証人及び原告本人の各尋問を求めた。
被告は合式の呼出を受けたのに本件口頭弁論の期日に出頭しない。
理由
≪証拠省略≫を綜合すると原告主張の請求原因事実を全部認めることができ、右認定を左右する証拠はない。
然して法例第一六条によれば離婚はその原因たる事実の発生した時における夫の本国法によると規定されているので被告の本国法たる大韓民国民法に照せば前段認定のような被告の行為は同国民法第八四〇条第六号の、その他婚姻を継続し難い重大な事由があるときに該当するものと認むべく、右の行為は日本国民法に於ても離婚の原因として認められるところであるから原告の被告と離婚を求むる本訴請求は理由がある。
次に原告は長男修一、二男安男、三男敏治の親権者を被告と定める旨の申立をなしているけれども大韓民国民法は同法第九〇九条第五項に於て父母が離婚した場合はその母は前婚中に出生した子の親権者になり得ないと規定し、離婚後の未成年者の親権者は夫たる父が法定されているのみならず、同法は裁判所に対し離婚の判決に於て親権者を指定する権限を附与していないから親権者を指定することはできない。従って右申立自体失当たるを免れない。よって原告の本訴請求を正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 新穂豊)